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枕草子 清少納言
春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。
夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏のねどころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛びいそぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるはいとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず。
冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし。昼になりて、ゆるくゆるびもていけば、火桶の火も白き灰がちになりてわろし。
うつくしきもの。瓜にかきたるちごの顔。雀の子のねず鳴きするにをどり来る。二つ三つばかりなるちごの、いそぎて這ひくる道に、いと小さき塵のありけるを、目ざとに見つけて、いとをかしげなる指にとらへて、大人ごとに見せたる、いとうつくし。頭はあまそぎなるちごの、目に髪のおほへるを、かきはやらで、うちかたぶきて物など見たるも、うつくし。 (第百四十五段)
月のいと明かきに、川をわたれば、牛の歩むままに、水晶などのわれたるやうに、水の散りたるこそをかしけれ。
(第二百十六段)
伊曽保物語
犬と肉のこと
ある犬、肉をくはへて川を渡る。真ん中ほどにて、その影水に映りて大きに見えければ、「我がくはふるところの肉より大きなる。」と心得て、これを捨ててかれを取らむとす。かるがゆゑに、二つながらこれを失ふ。
そのごとく、重欲心の輩は、他の財を羨み、事に触れて貪るほどに、たちまち天罰を被る。我が持つところの財をも失ふことありけり。
鳩と蟻のこと
ある川のほとりに、蟻遊ぶことありけり。にはかに水かさ増さりきて、かの蟻を誘ひ流る。浮きぬ沈みぬするところに、鳩こずゑよりこれを見て、「あはれなるありさまかな。」と、こずゑを食ひ切つて川の中に落としければ、蟻これに乗つて渚に上がりぬ。かかりけるところに、ある人、竿の先に鳥もちを付けて、かの鳩をささむとす。蟻心に思ふやう、「ただ今の恩を送らむものを。」と思ひ、かの人の足にしつかと食ひつきければ、おびえあがつて、竿をかしこに投げ捨てけり。そのものの色や知る。しかるに、鳩これを悟りて、いづくともなく飛び去りぬ。
そのごとく、人の恩を受けたらむ者は、いかさまにもその報ひをせばやと思ふ志を持つべし。